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名古屋高等裁判所 昭和53年(ラ)1号 決定

抗告人・債権者 三重銀行

理由

一  抗告人は、原決定添付別紙預金目録(二)の通知預金は抗告人に属するものであると主張し、これを前提として同預金目録(一)の各預金は抗告人に帰属するという。

よつて、まず、右通知預金発生に至るまでの経過について検討する。

本件記録によれば次の事実が一応認められる。

抗告人は、昭和五一年七月二八日機械の製造販売を主たる営業目的とする申請外会社内藤(以下単に内藤ともいう)から短期融資の申込を受けて、内藤がかねてスリランカ国アンソニー社との間の売買契約に基づき製造中の本件機械を見分し、右売買に関し右アンソニー社の依頼によりセイロン銀行が発したいわゆる信用状(L/C)を確認のうえこれを預り、内藤に対し、右機械の輸出代金を参酌して金二、七〇〇万円を利息年八・五%、弁済期同年八月三一日と定めて貸し渡し同年七月三一日右貸金債権担保の目的をもつて本件機械につき抗告人主張の内容の譲渡担保契約を締結した。ところが内藤は早くも同年八月三日には名古屋地方裁判所に和議開始の申立をなしたため、抗告人は本件機械が他所へ持出されたり処分されたりすることがないよう早急に対策を講ずる必要に迫られた。そこで本件機械を従前どおり内藤の工場に留め置き、内藤に製造を続行させて完成を待ち、右機械の船荷証券の引渡を受け、前記信用状と合わせて輸出代金の支払を得て債権の回収を図る目的で申請外会社釜屋(以下単に釜屋という)に協力を依頼し、その結果抗告人、内藤、釜屋の間において、内藤から釜屋に対し本件機械を代金三、〇〇〇万円で売渡すこと、釜屋から内藤に対し金額三、〇〇〇万円、満期同年九月一〇日とする約束手形を振出交付すること、抗告人はこれを割引いて前記貸金と割引金との差額金二七一万一、五〇七円を内藤に支払うこと、更に抗告人から釜屋に対しては本件機械の船積手続、輸出代金の取立等を委任することが合意され、併せて右売買を証する機械の注文請書、手形の領収証等が、あるいは右委任を証する委任状等が右当事者間で授受された。そして、同年八月五日抗告人は内藤の依頼により右手形を割引き、現実には金二七一万一、五〇七円を支払つたが、信用状は従前どおり抗告人が所持していた。その後内藤は右機械を完成し、その船積手続を完了して船荷証券を受領したが、抗告人及び釜屋からの船荷証券引渡の要求に応じなかつた。そのため右三者のいずれにおいても右機械の輸出代金を受取ることができない状態となり、抗告人はやむなく内藤と話合い、同年九月一三日右輸出代金を協力して取立てること、取立てた金員の最終的措置は、その頃内藤が手続をしていた会社更生手続開始決定の申立により選任されるべき保全管財人との間で協議決定すること、それまでの間内藤は右金員を費消しないことを合意のうえで取立て、取立てた金員は内藤の代理人大場民男名義で原決定添付別紙預金目緑(二)記載のとおり預金がなされた。

以上のとおり認められ、右認定を左右するに足りる疎明はない。

以上のとおり、原決定添付別紙預金目録(二)記載の通知預金は抗告人が譲渡担保の目的として取得した本件機械の輸出代金取立により得られた金員をもつて預金の目的とされたものであるが、昭和五一年一一月二五日内藤につき会社更生手続開始されたことは本件記録上明らかであり、譲渡担保権者は会社更生手続開始当時譲渡担保設定契約に基づいて取得した財産権の帰属が確定的でなく債権債務関係が存続する間は更生担保権者に準じて権利行使ができるに過ぎず取戻権を行使できないものと解すべきである(最高裁判所昭和四一年四月二八日判決・民集二〇巻四号九〇〇頁参照)から、抗告人と内藤との債権債務関係が清算され、抗告人が本件機械の所有権を確定的に取得し、前認定の輸出契約上の売主としての地位を取得したか否かについてさらに検討する。

前認定の昭和五一年八月四日から五日にかけての抗告人釜屋内藤の三者間でした合意とこれに基づく手形の授受割引売買を証する書類の授受等の一連の行為は、右合意の内容とされた前記売買の買主を釜屋としたことが抗告人主張のとおり形式的にそうしただけであるとすれば、一応抗告人と内藤との間の二、七〇〇万円の消費貸借関係の清算の外形が採られているけれども、当時本件機械は未完成で依然として内藤のもとに留めおかれてその完成がまたれる一方抗告人は前記信用状を保持していたことは前認定のとおりであり、釜屋振出の約束手形を抗告人において内藤に対し買戻請求をしていることが本件記録上明らかであるから、その実質は、右貸借関係を右手形の買戻債権債務関係に変えてこれを存続させ、従前の譲渡担保関係の維持強化を図つたにすぎないものと認められ、これにその後の本件機械の船積や船荷証券、輸出代金の取立とその預金に至る経緯、預金口座の名義が内藤の代理人大場民雄名義とされた等前認定の事実を考え合わせると、抗告人と右内藤間の債権債務関係、本件機械の譲渡担保関係が清算され、本件機械の所有権が確定的に抗告人に帰属し、それに伴ない抗告人が右機械の売主としての地位を承継したものとは到底認められないし、ほかにこれを認めるべき疎明はない。

そうするとその点においてすでに抗告人が本件機械を確定的に取得し輸出代金債権者となつたことを前提として前記通知預金債権を取得した旨の抗告人の主張は理由がなく、したがつて、その余につき判断するまでもなく、右主張事実を前提として本件預金が抗告人に属する旨の抗告人の主張は採用できない。

二  抗告人はまた前認定の輸出代金を抗告人において取立てた旨の主張をもするものとみられるが、前認定の合意の内容、取立てた金員をもつて目的とした預金口座名義からみて到底右主張は認められない。

三  しからば本件仮処分申請は被保全権利の疎明を欠き、保証をもつて右疎明に代えさせることも相当でないことが明らかであるから却下を免れず、これと同旨の原決定は結局相当である。

よつて本件抗告を棄却する

(裁判長裁判官 綿引末男 裁判官 高橋爽一郎 福田晧一)

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